ラーメン屋さんに学ぶ!企業が見積りで実践すべきこと

今回は少々変わったタイトルですが、仕事の見積りで大事なことはラーメンのオーダーの仕組みにヒントがあるんじゃないか、っていう内容です。
企業間取引における見積りのやり取りをラーメンのオーダーに例えると、下記のようなことがよく起こります。
(注)実際はこんな単純ではありませんが
お客さん:「ラーメンください。」
お店 :「500円になります。」
お客さん:(ネギ、ナルト、メンマ、チャーシュー1枚のラーメンをイメージ)
お店 :「お待たせしました。」(具が何も乗ってない素ラーメンが出る)
お客さん:「えぇ!?」(絶句。。)
一点もののメニューを扱っているお店なら、このやり取りでもお店側に問題はないでしょうけれど、複数のメニューを扱っていて、500円で出来ることはここまで!という独りよがりな対応(今回の場合は企業の見積り)は、少々問題がありますよね。
それはコミュニケーションの問題でしょ! と言われそうですが、そう簡単に片付きそうな問題でもなさそうです。
ラーメン屋さんの話をしたら、本物のラーメン屋さんがどのようにやり取りしてるか気になったので、まずは最近のラーメン屋さんのオーダー事情から見て行くことにましょう。
1.ラーメン屋さんのオーダースタイル
最近のラーメン屋さんは、入口で食券を買って、カウンターで麺の硬さや盛り方など、追加でお好みのオーダーをするスタイルが増えました。この食券式のお店のスタイルは、注文する側(買い手)とサービスを提供する側(売り手)の役割分担が実に明確です。
まず、「注文する側」は、(いくらぐらいで)(何を食べたいか・・味や量、具材など)(追加オーダー・・大盛や丼ものなど)を決めます。
その際、どんなメニューがあって、どのようなアレンジにすれば自分の欲求が満たされるかを、事前に調べておけば、オーダーはよりスムーズに進むでしょう。
お客さんにとっては、食券を買う行為がやや面倒なものの、店内への誘導など、特に問題がなければ、自分で好きなものを選べるので、さしたるデメリットはなさそうです。(*1)
- *1:接客に対する無機質感や、外国人にとっての注文ハードルが高いなど、課題は多々あるかもしれませんが、ラーメン屋さんの実務オペレーションの話は今回置いときます
一方、「サービスを提供する側」は、(お客さんがメニューを選びやすいこと)(安心して食べれる環境を提供すること)(適度な待ち時間でラーメンが出ること)(スムーズに食べれるように配慮すること)・・などに気を遣います。
つまり、サービスを受ける側の”動線”を明確に設計することがキモになると考えます。(*2)
- *2:拡大解釈すると、お店に入る前から、オーダーの受付~ラーメンの提供、お店を出るまで、のすべてがこの動線に含まれます
たとえば、人気順にメニューを並べたり、写真を掲示して完成イメージをアピールすることにより、メニューの選びやすさは格段にUPします。初めて利用するお客さんには、おススメ(迷ったらコレ!)を示したり、雑誌の取材記事を紹介するケースもよく見られますよね。
そして、さらに食券機を導入することで、お会計に要する時間や店員の教育コストを省きつつ、会計ミスやトラブルをなくし、本業のラーメンの提供に集中できる体制ができるという、お店にとって最大のメリットが生まれます。
2.企業間取引における見積りの問題点
ここで、企業間取引における見積りの問題点について考えてみます。
下記は、企業間取引の見積りでよく問題となるケースを、時系列で並べたものです。
(注)ここでは、買い手側:お客様、売り手側:ベンダーと記し、競合入札のケースを考慮せずに書きます
- 【お客様→ベンダー】要求やニーズが曖昧な状態で金額の算定を要請
- 予算獲得の関係上「概算でいいからx日までに見積りをください」と求めるケースが少なからずあり、概算と言いつつ(予算なので)ほぼ上限金額が決まってしまう
- 【ベンダー】可能な限りリスク対応コストを積み、要求が曖昧な箇所は”前提条件”による制約を設定し見積りを作成
- 要求が曖昧なほど、リスク係数や前提条件が積み上がる。結果、前提項目が100個を越えるなど、ガチガチに縛るケースが出現(実例多数)
- 契約が取れた場合、上記の制約事項をどうやって管理するの?という問題が新たに発生(こちらも実例多数)
- 【双方】見積り提示額とお客様の予算が1回では折り合わないことがほとんどなので、調整を繰り返し、予算内に収納
- 変更を繰り返した結果、目的に対するズレや見積り内での整合性に問題が発生
- ベンダーは「概算なので、前提が変わったら金額が変わる」と思っているが、お客様は「ある程度の要求が実現する契約を予算内で締結できた」と思っている(経験からの推測) →明確なすれ違いが発生
- 【お客様】プロジェクト開始後、認識合わせの打ち合わせや変更が多発
- 元々要求が曖昧なことに発端があるが、見積りに対する見解のずれ/関係者の溝は中々埋まらない→8割方は、最後まで引きずる
- 【ベンダー】想定していたリスクの範囲を越えそうな時点で、前提条件を盾に追加請求を開始
- お客様側は、見積りの見解のずれから、請求に対し抵抗
- 徐々に関係が悪化
上記は、ひとことで言えば「予算獲得時と契約スタート時のオーダー内容に差があり、交渉が難航、関係が悪化する」例です。実際、見積りでこうした状況に陥ることは、驚くほど多いと筆者は思っています。特にIT業界では多いのですが、皆さまの周辺ではいかがでしょうか。
3.ラーメン屋さんのオーダーの仕組みに学ぶこと
さて、ここでラーメン屋さんのオーダースタイルのポイントを整理してみます。
<ラーメン屋さんの場合>
- お客さんとお店の役割が明確・・食券式のお店では、お店の側がそのように導いている?
- お客さんの欲求に基づくオーダー内容は、お客さんの側で最初に決めてもらう。特に、 後で変更されると困るものは、事前に確定してもらう。小変更で対応できるものは、オーダー直前でも、ある程度受け付ける
- ラーメンを食べる体験を中心に”動線”が設計されている(顧客提供価値)
- より本業に集中できるように、それ以外を省力化、自動化している(業務の効率化、仕事の質の追求)
これが ”ラーメン屋さんのオーダーの仕組みから学ぶポイント” だと考えます。
では、上記に対比する形で、企業間取引における見積りで失敗するケースを見るとどうでしょうか。
<企業間取引(見積り)で失敗するケース>
- 買い手と売り手の役割が曖昧
→ 買い手側・・自身が実現したい欲求の整理に問題を抱えている
→ 売り手側・・見積り方法や提示の仕方に問題がありそう - 買い手側と売り手、それぞれの対応が中途半端
→ 買い手側・・自分たちで決めるという意識が薄い(?)
→ 売り手側・・先に決めるもの/後で対応できるものの切り分け・誘導ができない(?) - 体験を中心にした動線の設計は置き去りのケース多数
→ サービスの「目的と対価」が、忘れられてしまうこともしばしば - 本業集中と省力化/自動化は未開拓
→ そもそも、 見積りや契約、変更のやり取りは省力化すべきもの
→ 価値を生む本業への集中を意識して進める必要あり
まとめると、企業間取引の見積りにおいては、買い手/売り手双方がすべきことを明確に取り決めること、見積りを発端とする揉め事を排除し、本業への集中→仕事の価値の追求に早く取り組むこと、この2つがラーメン屋さんのオーダーを通して、企業が学び、実践すべきことだと考えます。

というわけで、長くなりましたが、冒頭の会話に戻ると、企業間取引においては、 最低限、下記のようなやり取りが必要になるのではないでしょうか。
お客さん:「ラーメンください。」
お店 :「基本は醤油ベースが500円、味噌が・・、トッピングは5種各100円、大盛が150円増しとなっております。」
お客さん:「では、醤油ベースの大盛+もやし、チャーシュー追加でお願いします。」
お店 :「はい。では、お会計は 850円 となります。」
重要なのは、こうしたやり取り(支流の部分)で揉めることなく、企業は売り手、買い手ともに本業の価値向上に集中できるようにすることです。効率化できる部分を見極めて、ビジネスの本流で結果を残せるようにしたいものですね。
見積りの具体的な進め方については、また書きます。

shuCEO
シーズメッシュ代表取締役
学生時代にアートを学ぶ。IT企業に就職し、40数件のプロジェクトを経験。悩みながらもプロジェクト成功確率を上げる管理手法を編み出す。品証、PMO、IPA研究員、改革リーダーを経験した後、アート×サイエンスによるコンサル&プロデュースを行う会社を設立し、現在に至る。