
シーズメッシュの「ガレージトーク」〜突然、DX推進部に異動! 何か勉強しておくべき?〜

シーズメッシュ代表の本間が、毎回ゲストを迎えて、
第2回のゲストは、シーズメッシュとシステム分野で協業するテラ・システム株式会社代表取締役の松原弘治さんです。
今回のテーマは、毎日のように耳にする「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。近年、多くの会社でDX推進部門が立ち上がり、社内からメンバーを集めてチームを組成しています。
営業や企画といったビジネス部門でキャリアを積んだ人がDX推進部に異動になると、「デジタルのことなんて、何も知らないのに……」と不安を抱く場合が少なくないようです。「とりあえず、プログラミングの基礎は理解しておいた方がいいのかな?」と本を手に取ってみるも、勉強する意味合いがイマイチ掴めず、落ち込んでしまうことも。
このような方々は、DXにどう向き合えばいいのでしょうか? 多くの会社のDXの現場を知るお二人に、アドバイスをもらいました。
(聞き手・文:御代貴子(ライター))
本を読んで、DXを理解した気になるのはダメ
――今日は、本間さんと松原さんに伺ってみたいことがあるんです。最近、多くの会社でDX推進部門が立ち上がって、ビジネス部門からDXの部門に急に異動になる人も珍しくないようですね。
でも、「DXって言われても、デジタル技術なんて何も知らない」と不安になるみたいで。こういう場合、何か勉強しておいた方がいいんでしょうか? プログラミングの基礎とか、DXの入門書を読むとか……。
松原 まあ、知らないよりは知っておいたほうがいいんじゃないかな。
本間 そうですね。多くのお客様のDX支援を今まさにやっていますが、チームメンバーの皆さんは、必ずしも技術に長けているわけではないですよ。逆に、技術一辺倒の人だからといってDXを成功に導けるわけでもないんです。それよりも大切なことがあると思いますね。
松原 これからDX推進に関わる人が、何冊か本を読んで「わかった気になる」のが一番危険だと思います。「DXって、こうすればいいのね」と鵜呑みにしてしまったら、決して仕事はうまくいかない。僕も、もっと大事なことがあるという点で同感です。
――その「もっと大事なこと」を聞きたいです! いったい、何なんでしょうか?
本間 ちょっとその前に、いろいろなお客様とDXプロジェクトをご一緒する中で感じていることを言わせてください。前提となる心構えみたいなものです。
DXって、魔法の杖じゃないんです。デジタルやAIがあれば何かいいことが起きるわけではない。デジタル技術を使って何をしたいのか、自分達ならではの意思をもつことが大前提です。
デジタル技術は文房具のようなもので、「どうしたいのか」を叶えるための手段でしかありません。立派な色鉛筆を買ったからといって、すばらしい絵が描けるわけではない。DXっていう言葉が一人歩きして、ともすると手段が目的にすり変わってしまいがちなんですよね。
松原 DXという言葉が出てくる前は、「IT化」と言われる時期がありましたけれども、DXもIT化も同じ。目的が抜けてしまうことがありますね。デジタルやITって、なんかすごいものだと感じるので。
本間さんに、実際のDXプロジェクトでどんなことをやっているのか、伺ってみましょう。
DXの出発点は、「無知の知」
――実際のDXプロジェクトでは、どんなことから考え始めるんですか? 急に異動になった人も、すぐに活躍できるものなんでしょうか。
本間 業務を棚卸しして、問題点を発掘することからスタートする場合が多いですね。こう言うと簡単に聞こえるし、業務のことは十分知っていると思う方も多いのですが、実際に業務全体を把握できているケースは極めて少ないです。
「一番困っていることって何ですか?」と質問して、最初から明確な答えをいただけることはほとんどないので、そこから一緒に考えることが多いです。なので、技術的な知識があるかどうかはこの時点ではあまり関係ないですね。
松原 特に僕たちのような外部企業と協業するときには、今の業務がどうなっているのかを理解することが、成功を左右するといってもいいほど大事なポイントだと思いますね。現実を理解して、自分の仕事を見つめ直すこと。ちょっと哲学的ですけど。
業務を把握するって難しいんですよ、本当に。大企業になればなるほど難しい。自分の仕事のアウトプットは必ず誰かに渡っています。それが隣の部署になるともう様子が分からないし、2つ先の工程になると全く見えない。これは誰が悪いわけでもなく、自然なことです。
本間 そうそう。データも社内のあちこちに点在していますしね。本来なら、営業も開発も経理も同じデータを見て課題を共有できればいいのですが、できる体制になっていない。
となると、まずは把握していない、理解していないことを受け入れることが大事なんです。また哲学的になっちゃいますが、「無知の知」こそDXの出発点になります。
当社にお問い合わせいただくお客様から、「目的や課題設定が正しいのかわからないので、そこからご相談したい」と率直な話が挙がる方が、むしろ私としてはありがたいお話です。
逆に、自分達が把握・理解していないことに無自覚だと、突然「このツールを入れよう」などと、目的のない「DXらしきもの」をやりがちです。
システムのリプレイスも、「DXらしきもの」になりがちですね。多くの企業ではシステムが老朽化していて、リプレイスを焦るあまり、とりあえず付き合いのあるベンダーの新システムを入れようとするケースが見られます。最高級の文房具は目の前にあるけれど、それでどんな絵を描きたいのかが抜けてしまっている。
そういう時こそ、僕は「一番困っていることって何ですか?」と伺うようにしているんです。わからなければ、現場の責任者の皆さんへヒアリングしていきます。
松原 なるほど。本間さんのようなコンサルタントがいればヒアリングもやってくれるかもしれないですけれど、いなかったら自分達でやることになりますよね。ビジネス部門からDX推進部門へ異動する人が発揮できる価値って、ここにあるんじゃないですか?
素直さ、寛容さ、興味関心
――確かに、ビジネス部門の経験が長い人であれば、少なくとも自分の部門の業務内容や困り事は、生々しく知っていますよね。
松原 そうですよね。外部企業の立場からすると、社内の業務内容をふまえて、僕たちが最初に提案したシステムを鵜呑みにせず、疑問点をきちんと提示してくれる人って貴重な存在なんです。一言で表すと、「的確にケチをつけてくれる人」ですね。細かい人も多いのですが(笑)、このような人がいるおかげで、目的を見失わずにDXの手段を考えられます。
DXの推進役になった人は、業務内容でわからないことは他の部門に聞きに行ったらいいんですよ。その仕事をしている人以上に詳しい人はいないんだから。素直に、興味をもって聞きに行く。足で稼いだ生の情報は、DXをどう進めていくかを考えるときに重宝します。
私もかつて、お客様の社内でいろいろな部署に業務を聞いて回った経験がありますが、最初は嫌がられても、意外と教えてくれるものですよ。
本間さんは、お客様に業務内容をヒアリングするときに気をつけていることはありますか?外部の立場なので、他部署から聞きに行くよりもハードルが高い気がするのですが。
本間 ちょっとしたことなのですが、気をつけていることはありますね。まずは、最近嬉しかったことや良かったことを聞いた後に、悩みを聞くようにしています。「返報性の法則」という、相手から受けた好意に対してお返しをしたいと思う人間の自然な心理を意識してたりします。
また、経営陣から各現場の責任者の方へ、あらかじめヒアリングへの協力を呼びかけてもらうようにもしています。それがないと、人間の心理として、突然現れた人に自分の悩みを話すことなんてしにくくないですか?
松原 確かにトップのコミットメントは欠かせませんね。トップの意思がないと、何も実らない。DXをやるといっても、現場にとってはメリットがわかりにくいですもんね。少なくとも最初は。
本間 そうなんです。まずは話を聞かせてもらう方々が、安心して話しやすい状況をつくることが大切だと思います。
あとは、DXプロジェクトは経営と同じで、生き物のようなものです。状況によってやるべきことが変わるし、時にはゴールも変わる。白黒はっきりさせられないこともたくさんあります。朝令暮改は当たり前ですから、DX推進部門の方々も、そして僕たち外部企業も、寛容さをもつことも大事だと思っています。
素直さ、寛容さ、そして基本姿勢として相手やDXそのものへの興味関心。この3つを意識して、リアルな事実を集めて分析することは、多くのプロジェクトで私も実践しています。
松原 なるほど。さらには、DXのプロジェクトは社内外のいろいろな立場の人が関わるものだから、推進役になる人の「愛嬌」も大事だと思いますね。人間関係を築く力は、広義のDX推進力かもしれません。だって人間は、ベストではなくとも、いま不満のない現状を変えたくない生き物ですから。DXを進めると言われると、「今までがんばってきたことが、無しになるの?」と抵抗感が芽生えて、人格が否定されたような気持ちになってしまうんですよね。
そんな時でも、DX推進役と現場が信頼関係を築けるための愛嬌と、一方で嫌われる覚悟も必要ですね。文句を言われても、目的に向かって心折れずに進める胆力。
――確かに、さまざまなステークホルダーの協力を得ながら行動できる人は、重宝されそうです。ところで、最初の質問に戻ってしまうんですが、デジタルの知識は要らないんでしょうか?
松原 技術者の言っていることの概要がわかるくらいでいいと思います。プログラミングも、システムが動くカラクリを知っていれば十分。だって、エンジニアでさえプログラミングを完璧にできる人ばかりではないですから。そんなに気負う必要はないですよ。
ビジネス部門の出身者がDXを推進するなら、現場と技術者の橋渡し役になれるとベストですね。翻訳係と言ってもいいかもしれません。現場と技術の両方を見渡せる人って、貴重ですよ。
となると、勉強して得た知識は、自分の会社に当てはめたらどうなるのかまで考えないと意味がないですよね。そこまで考えておくと、プロジェクトで議論するときの「観点」として役立ちます。
本間 「ビジネスと技術を繋ぎ合わせられる人がいない」と悩む会社さんは少なくないですね。ビジネス部門から異動した人にとっては、価値発揮のしどころではないでしょうか。
DXは単なるシステム化でもないし、効率化の手段だけでもありません。「価値を生み出す手段」なんですよね。どのような価値を生み出したいかを考える際に、ビジネスの視点が必要になります。そして、逆引きをして、必要な施策に落とし込んでいく考え方をするのです。DX推進役の人は、少なくともこうしたプロセスを議論できるだけの知識をもち、メンバーを巻き込んで、よい雰囲気を醸成できる力が欠かせません。
そして、人は手段に踊らされがちですから、プロジェクトの最後まで目的意識をもち続けたいものですね。そうでないと、「たくさん投資してシステムを入れたのに、なぜか効果が出ない」という状態になってしまうので注意が必要です。
DX推進部門に異動になって悩む皆さんの参考になっていれば嬉しいですね。僕も、松原さんと話をして、改めて頭の整理ができました。今日はありがとうございました!
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