シーズメッシュの「ガレージトーク」〜今さら聞けない「付加価値」って何?〜

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シーズメッシュ代表の本間が、毎回ゲストを迎えて、ビジネスや経営にまつわる素朴な疑問を話していく「ガレージトーク」が始まります!

本日のゲストは、Webコンサルティング会社Seventy Seventy代表の大角誠之さん。大角さんが長野県のとある牧場を訪れた際、ふと感じた疑問をもとに話が繰り広げられます。

その疑問とは、「付加価値」。巷のニュースや企業の経営計画資料でよく見かける、ビジネスパーソンなら一度は耳にしたことのあるフレーズですよね。

付加価値って、つまり何?
付加価値って、どうやって作るの?

こんな大角さんの素朴な疑問を深掘りして、ゆるりと考えてみたいと思います。

(聞き手・文:御代貴子(ライター))


長野の牧場で感じた「付加価値って何だ?」


――大角さん、最近牧場に遊びに行ったと聞きましたよ。

大角 そうなんです。僕、今年移住した長野県にある、とある牧場のInstagramをフォローしているんです。その牧場で見学会をやるという投稿を見つけて、興味があったので行ってみたんですよ。

実際に見学してみると、牧場といっても牛舎に牛が並んでいるのではなく、山で放牧する「山地酪農(やまちらくのう)」というのをやっていたんです。牧場を経営しているご夫婦に話を聞いたら、これからアイスクリームを作ったり、カフェを開いたりしたいと言っていて、おもしろそうだなと思いましたね。牛もかわいいし。

本間 へえ、いいですね。行ってみたい!

大角 でもその一方で、どうやって採算取るんだろうって、ふと思っちゃったんですよね。山地酪農って、野球場1個分くらいの広大な土地に、牛2頭を放牧するような世界らしいんです。その牛から搾乳してできる牛乳はとびきりおいしいので、アイスクリームにしたら絶品だと思うんですけど。

本間 そのままでは、採算取れなさそうですね。単価を上げるにも限界がありますし。

大角 そうなんですよ。ご夫婦も「ブランド化して、付加価値を高めないと」っておっしゃっていて。ブランド牛乳としては、北海道の牧場の牛乳で1リットル2,000円のものがあるらしいんですけど、それが限界みたいです。牛2頭となると、2,000円で売ってもビジネスにならないですしね。スケールもしない。

ところが、隣の村に懇意にしている養鶏場があって、育て方にこだわったおいしい卵を生産しているらしいんです。価格も高めにして売っているみたいで。牧場のご夫婦も「自分たちの牛乳と、その養鶏場の卵を使って何かできたらいいんですけどね」と話していたんです。

なるほど、牛乳だけでなく、違う素材である卵を組み合わせたらプリンもできるなあ、なんて僕も思ったんですよね。そうやって「掛け算」で付加価値って生まれていくのかな、と。牛乳と卵を掛け算すると、1+1が2ではなくて3以上の価値が生まれるかもしれませんよね。

付加価値って、何かと何かを一緒に売るだけでもなくて、既存のものを新しいものに置き換えるだけでもないですよね。簡単に使われる言葉だけど、簡単じゃないなと思うんです。本間さんがコンサルしていても、付加価値の話ってよく出ますか?

本間 はい、よく話にあがりますね。価値というワードが出ない方がむしろ少ないくらいです。ちなみに、付加価値という言葉は、何らかの対象があるときに僕は使ってます。

大角 一応、財務会計の分野において、付加価値の計算式もあるらしいんですけど、数字で語られないものがありそうですよね。たとえば、マーケティングの世界では、そのブランドを買いたいと思うかの「ブランド選好度」が売上に影響するとされています。ブランド力を高めるのが付加価値なのか? などと最近考えていて、本間さんと語りたいなと思ったんですよ。



付加価値とは、ワクワクする話であるはず


――本間さんは、お客様とどんなときに付加価値の話をするんですか?

本間 お客様と価値の話になるのは、戦略を考えているときが多いですね。どういう付加価値を出していくかを戦略に組み込むので。

その中で、話が行き詰まるパターンがあるんですよ。DXを例に挙げると、「何のためにDXを進めようとされているんですか?」「DXで何をしたいんですか?」と聞くと、明確な答えが出てこないことがよくあります。僕は、この「何」の部分が価値だと思っているんです。

多くの場合が、「DX」という言葉だけが社内で一人歩きして、価値の話をしなさすぎるんです。社長からテーマが降りてきて、やれと言われたからやる風潮があるとも感じています。なので、まず価値を考えること自体がいいですよね!

大角 おお、嬉しい。で、付加価値って何ですかね?(笑)

本間 本来はワクワクする話だと思うんですよね。会社として誰かに対する提案だったり、お客様の満足度をより高める何かだったり。あるいは、次の世代の優秀な人材を呼び込めるような、未来を見据えたものも含まれると思うんです。お客様が嬉しい、ありがたい、幸せだといったワクワクする話自体が付加価値じゃないかなと。

大角 なるほど。計算式で表せるものではないんですかね、やっぱり。

本間 数字は、付加価値を考えた後、ビジネスの構造を考えるときに出てきますね。言葉で定義した付加価値をより鮮明にしてくれるのが、数字なんだと思います。僕がお客様の戦略策定のご支援をする際は、価値を生み出すための施策をストーリーで繋げて、それぞれの施策は売上をアップするものなのか、コストを下げるものなのかをデザインしていきます。

ビジネスは営利活動なので、最終的には利益を生み出さないといけませんが、利益から考え始めると付加価値を考えにくいし、大胆なチャレンジができなくなるんです。なので、考える順番は、ワクワクする付加価値を言葉で定義してから、数字を考えるのがいいと思います。

大角 ワクワクする話っていいですね。付加価値には、人の心に響く要素が何かありそうだと思ってきました。


ストーリーがある付加価値は、人の記憶に残る


――最近、「これ、付加価値高いな」と思うことがあったんですよ。SlackとAmazonのカスタマーサポートです。困ったことをチャットで連絡したときの対応がすごく良くて。想像より返信が早くもらえて、わかりやすかったんです。

さらに驚いたのが、SlackとAmazonだとチャットの文調が全然違うことなんです。Slackはとてもフランクで、Amazonは礼儀正しい感じ。でも両社とも、担当者が変わっても文調は一貫してるんですよ。すごくないですか?

大角 それは面白いですね!なにやら付加価値の正体につながりそうな話ですね。

顧客としての体験価値があったってことですよね。これができているのって、現場のメンバーが自分たちの付加価値をきちんと理解しているからに他ならないと思うんです。企業理念が浸透していることを感じるなあ。さっき本間さんが言ってくれたような、DXで目指したいことが不明確な状態だと、こうはいかない。

Slackのコアバリューを見ると、そのひとつに「遊び心」がありますね。フランクな文調は、この遊び心の表れのようにも思います。

このような企業理念に紐づいた付加価値があって、それをストーリーとして経営トップから現場までが理解していて、顧客に提供されると、体験した顧客はやっぱり忘れないですよね。チャット対応で直接売上が増えるわけではないけれど、顧客に「また利用しよう」と自然と思ってもらえる。

それで思い出したのですが、前に参加したセミナーで、代々木上原のレストラン「sio」の鳥羽周作シェフが感動体験の作り方について話していたんです。コース料理もストーリーを考えて設計しているそうですし、そのセミナーで出されたお弁当も秀逸だったんです。ごはん、おかず、お茶、お弁当を包むパッケージや割り箸にまですべてストーリーがあって。 やっぱり僕も、数か月経った今も忘れず覚えていますね。

こうして話しているうちに、少しずつ、付加価値の正体が見えてきた気がします。


付加価値は、「感覚」と「論理」の二刀流で考えよう



ーー付加価値は本来ワクワクするものであり、理念とストーリーで紐づいていると現場の理解も進みやすそうだ、ということがわかってきました。でも、付加価値って実際どうやって作ればいいんでしょうか? 戦略を考える人がいちばん頭を悩ませることだと思うんです。

本間 付加価値にはワクワクする要素が必要だと考えると、それを作る僕たちが、まず「直感」に敏感にならないといけないと思うんです。自分のワクワクを見逃さないために。「おかしいな」とか「美しいな」と思うのって直感ですよね。

ビジネスでは時に論理が先行してしまって、直感で「なんかおかしいな」、逆に「これはなんか良さそうだな」と思うことを見逃しがちなんです。これをスルーしないでしっかり捉えることがまず大事。

それと僕はよく体性感覚について話すんですが、人が元来もっている皮膚の感覚の内側にある、“何となくこうだ”という部分を意識することが大事だと思うんです。一般的にこの感覚を体性感覚といいます。たとえば、子供のころお砂場で遊んでいて、砂が崩れないように水をちょっと足すなどの“微妙な感覚”がありますよね。体性感覚は記憶の感覚でもあり、心の記憶にもつながっています。

でも、直観や体性感覚だけではビジネスはできない。非論理でもダメなんです。直感にも、その内側には必ず本質があって、データで法則性を見出せると直感に再現性をもたせられます。たとえばアートの世界だと、欧米で美しいとされるのは黄金比(1:1.618)、日本で美しいとされるのは白銀比(1:1.414)です。「美しい」は直感ですが、黄金比や白銀比は数字で表されるものです。

このように直感をデータで実証する営みは、アートやサイエンスの世界では古くから行われていますが、ビジネス界ではなぜか抜けがちなんですよ。論理一辺倒では、付加価値なんて作れないと思います。だから逆に、「美意識」に関する本がビジネス界で流行するのかもしれませんね。

大角 さっき話に出ていた企業理念って、まさに美意識ですよね。自分たちがありたい姿っていう美意識。そして、ありたい姿ってお客様を見ないと描けない。上司を見ていても出てこないですよね。

本間 そうなんですよ。そこまで話が進むと、戦略をストーリーで考えられるようになるんです。細かな論理の話もするけれど、言葉を磨き込んでストーリーを描いて戦略を作ることはとても大事だと思います。

世の中のビジネスパーソンの皆さんが悩むポイントはまさにここで、実はありたい姿を描くのが苦手なんです。余力がなくて“心の声”に意識が向かない、まさに「心がない」という忙しい状態であることも原因のひとつかもしれません。でも、論理や知識だけを補って価値を考えようとしても、やっぱり生み出せないんです。

でも、ありたい姿をとことん話し合っていると、段々と「ワクワク」を思い出して、価値を描けるようになっていくんです。時間はかかりますが、直感や体性感覚を思い出してくるのでしょうね。こうして生み出された付加価値には、必ず「その会社らしさ」が宿るものだとも感じます。

大角 なるほど、付加価値には「らしさ」があるんですね。理念と付加価値はストーリーでつながるという話とも合点がいきます。

本間 こうして付加価値を言葉にして、戦略に落として、実際にサービス化されたお客様の事例を見ていると、ユーザーの期待や想像を上回るものになるんですよね。ユーザーにとっては、さっきのSlackやAmazonのカスタマーサポートのように、「嬉しい」「感動した」といった記憶に残る体験価値になる。熱量をもった付加価値は、誰かを突き動かす原動力になりますね。

大角 それを理念とセットで現場に浸透させる活動も、次に必要になりますよね。付加価値を実際に作るのは現場だから。浸透していないと、「DXって何でやるんだっけ?」という状態からは抜け出しきれない。

本間 そうですね。そうして、さらには次の世代に受け継いでいくものなんでしょうね。我々も前の世代からもらったギフトがあって、その上に乗って何かを作り出しているわけですから。今の付加価値は、次世代の当たり前になる。そうしてより良い世の中になっていく。時代はこの繰り返しですね。

大角 牧場でふと感じた「付加価値」が、こんなに深い話になるとは思っていませんでしたね。ありがとうございました!

本間 僕も学びがありました。ありがとうございます。またガレージトークしましょう!

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